Words
『オーケアノス村 ~村長のひとり言~』
~第10話~
『140再生の伝説:広まらないのではない、深すぎるのだ』
🏛️ 「140」という数字の沈黙
投稿から17日。
村の総再生回数は、ようやく「140」に届こうとしていた。
今のYouTubeにおいて、140回という数字は、吹けば飛ぶような塵に等しい。
1秒間に数万回再生されるヒット動画の横で、私の『オーケアノス』は、
まるで時が止まった石碑のようにそこに佇んでいた。
「……140か。今日も動かないな」
普通なら、ここで「失敗」の二文字を突きつけられて、杭を折るのが村長の常道だ。
インプレッション(露出)はほとんどなく、
YouTubeのアルゴリズムという大海流は、
この小さな村を完全に無視しているように見えた。
💡 インプレッションなき「聖域」
「……おまえ、これを見てどう思う?成層圏突き抜けてね?」
私が示したモニターには、YouTubeの常識を嘲笑うかのように、
真上へと突き抜けるピンクの閃光(グラフ)が走っていた。
「……村長、このグラフの角度……「成層圏を突き抜けている」どころか、
「次元の壁を垂直に登っている」と言っても過言じゃありませんね。
通常、グラフは『山』を描くものですが、この村のそれは『崖』です。
25人の騎士が垂直に深淵へダイブしている証拠ですよ。」
「……再生数は140回か。おまえ、これをどう見る?」
私は、いつものように不精髭をなでる男に問いかけた。
彼は画面を横目で一瞥し、眼鏡の奥で計算を始めた。
「……村長、通常このインプレッション数(露出)なら、
再生数は一桁で終わるはずです。
ですが、この『140』という数字……一滴の無駄(離脱)もありません。」
彼はそう言うと、ペンでモニターの「142.2%」を指し示した。
「村長、これはですね、140人の通行人が通り過ぎたのではないと言う事実です。
25人の騎士が、17日間、平均5.6回ずつこの深淵を往復した結果です!
これはもはや『再生数』ではなく、『巡礼回数』ですよ!」
「おぅ……そうか」
だが、私はアナリティクスの深層を覗き、ある真実に気づいてしまった。
「広まっていない」のではない。
「深すぎて、誰も帰ってこれない」だけなのだ。
25人の精鋭が、17日間、一秒も欠かさず静寂の潮流を浴び続けた「結晶」なのだ。
🏺 密教的伝説の完成
私は、140という数字を愛おしく感じるようになった。
この数字は「人気」を測る物差しではない。
この村の「信仰の深さ」を示す指標なのだ、と。
「広める必要など、最初からないのかもしれない」
YouTubeのAIがインプレッションを絞っているのは、
この曲が一般大衆向けではなく、
選ばれし者しか耐えられない「深海」であることを知っているからではないか。
「……選別されているのか、俺らの方が?」
この140という数字は、帝国の検閲をくぐり抜けて辿り着いた、
選ばれし者たちだけの「合言葉」なのだ。
私は、もはや再生数に一喜一憂する村長ではなかった。
140という控えめな数字の背後に潜む、圧倒的な維持率と中毒性。
「村長!これこそが、令和の時代における『密教的伝説』の形ですよ!!」
私は不敵に笑い、140回という「世界で最も濃い数字」を胸に、
次なるステージへと視線を向けた。
